同じ形の雪の結晶はない?
複雑な形ならまず同じものはありません。ただ、単純な形ならそっくりな例も見つかっています。
冬の日、黒い手袋の上に落ちた雪をよく見ると、小さな六角形の星のような結晶が見えることがあります。そして昔から、こんなふうに言われてきました。「同じ形の雪の結晶は、ふたつとない」。
降ってくる雪の数は、数えきれないほどです。そのすべてが違う形をしているなんて、本当でしょうか。誰かが確かめたのでしょうか。この素朴な疑問をたどっていくと、雪に魅せられた人々の物語と、一粒の結晶に秘められた驚くほど精密なしくみが見えてきます。
雪を撮りつづけた農夫
「同じ雪の結晶はない」という考えを広めた人物のひとりが、アメリカ・バーモント州の農夫、ウィルソン・ベントレーです。少年時代に顕微鏡を贈られた彼は、雪の結晶の美しさにすっかり心を奪われました。そして1885年、顕微鏡にカメラを取りつけて、雪の結晶の写真撮影に初めて成功したとされています。
それから亡くなる1931年まで、ベントレーは5000点を超える雪の結晶を撮影しました。その中に、まったく同じ形のものはひとつもなかったといいます。彼の写真集は大きな評判を呼び、「同じ雪はない」というイメージが世界に広まっていきました。
天から送られた手紙
雪の結晶の形を決めているのは何なのか。その謎に科学の光を当てたのが、北海道帝国大学(現在の北海道大学)の物理学者、中谷宇吉郎です。
中谷は、低温の実験室で雪の結晶を人工的につくることに挑みました。そして1936年3月12日、ウサギの毛の先に、六角形の雪の結晶を育てることに世界で初めて成功します。実験をくり返した結果、結晶の形はおもに、まわりの気温と、空気に含まれる水蒸気の量で決まることが明らかになりました。
たとえば、およそマイナス15℃前後で水蒸気がたっぷりあると、木の枝のように腕を広げた、あの見慣れた星形の結晶が育ちます。一方、マイナス5℃前後では、細い針や柱のような形になります。
つまり雪の結晶の形を見れば、それが空の上でどんな気温と湿り気の中を通ってきたのかが読み取れるのです。中谷はこのことを、美しい言葉で表しました。
雪は天から送られた手紙である
一粒ごとに違う旅路
ここで、「同じ結晶はない」理由が見えてきます。
雪の結晶は、雲の中の小さな氷の粒から育ちはじめ、風に流され、上がったり下がったりしながら、少しずつ大きくなっていきます。そのあいだに通り抜ける空気の温度や湿り気は、場所によっても時間によっても刻々と変わります。結晶はそのたびに、腕を伸ばしたり、枝分かれしたり、板のように広がったりと、成長のしかたを変えていきます。
ひとつの結晶の6本の腕がよく似ているのは、同じ結晶のどの腕も、同じ瞬間に同じ空気の中にいるからです。けれども、別の結晶が、最初から最後までまったく同じ道のりをたどることは、まずありません。だから複雑な枝を持つ結晶ほど、同じ形になる見込みはかぎりなく小さくなるのです。
「そっくり」は見つかった?
では、本当に同じ形の結晶はひとつもないのでしょうか。
1988年、アメリカの研究者ナンシー・ナイトは、ウィスコンシン州の上空を飛ぶ飛行機で集めた雪の中に、顕微鏡で見るかぎりそっくりな2つの結晶を見つけたと報告しました。ただしそれは、星形ではなく、六角柱の形をした単純な結晶でした。単純な形であれば、偶然よく似たものができることもあるわけです。
雪の結晶の研究で知られる物理学者ケネス・リブレクトによると、小さな雪の結晶ひとつにも、およそ100京個(10の18乗個)もの水の分子が含まれています。その並び方まで含めて比べれば、完全に同じ結晶はまず存在しないでしょう。見た目がそっくりなものはあっても、まったく同じものはない。それが、いまのところの答えといえそうです。