雷が止まない湖がある?
ベネズエラのマラカイボ湖です。夜になると、何時間も稲妻が光り続けます。
233回
雷といえば、夏の夕立のように、ひとしきり暴れたら去っていくものです。一晩中ゴロゴロと鳴り続けたら、眠れなくて困ってしまうでしょう。
ところが南米のベネズエラには、夜になると稲妻が光りはじめ、何時間も止まらない場所があります。しかもそれが、1年のうちのとても多くの夜にくり返されるのです。この現象は、近くを流れる川の名前から「カタトゥンボの雷」と呼ばれています。
世界一の「雷の都」
その場所は、ベネズエラ北西部にあるマラカイボ湖です。南米でも最大級の湖で、北の端は細い水路でカリブ海の湾とつながっています。湖の南西部、カタトゥンボ川が流れ込むあたりが、雷の中心地です。
2016年、NASAなどの研究チームは、人工衛星に積まれた雷の観測装置が16年分集めたデータを分析し、地球上で雷が多い場所のランキングを発表しました。その1位に輝いたのが、マラカイボ湖でした。雷の数は、1平方キロメートルあたり年平均で約233回。それまで世界一とされてきたアフリカのコンゴ盆地を抑えての首位です。ギネス世界記録にも、「雷がもっとも集中する場所」として認定されています。
雷が光る夜の数は、資料によって幅があります。年に140〜160夜ほどとする資料がある一方、NASAの研究では、夜の雷雨が年平均で約297日起きているとされ、ギネス世界記録は「最大で年に300夜」としています。いずれにしても、1年の多くの夜に稲妻が光っていることは確かです。ひとたび始まると、1分間に十数回から数十回というペースで光り、9時間ほど続くこともあるといいます。
山からの風と湖の熱気
なぜこの湖では、これほど雷が多いのでしょうか。カギは地形にあります。
マラカイボ湖は、西をペリハー山脈に、南東をアンデス山脈から続くメリダ山脈に挟まれた低地にあります。昼のあいだ、熱帯の強い日差しを浴びた湖からは、たっぷりと水蒸気が立ちのぼり、湖の上には暖かく湿った空気がたまっていきます。夜になると、山の斜面で冷やされた空気が、山風となって湖へ吹き下ろしてきます。この風が湖の上でぶつかり合い、暖かく湿った空気を上へと押し上げます。持ち上げられた空気の中で巨大な積乱雲が育ち、雷を生むのです。
ふつう陸の上の雷は、地面が温まった午後に多くなります。マラカイボ湖の雷が夜に集中するのは、こうした山と湖の組み合わせならではの特徴です。
かつては、周辺の湿地や油田から出るメタンガスが雷を引き起こしているという説もありました。しかし、季節による雷の増減とうまく合わないことなどから、現在では否定されています。一方で、雷の量は大きな気候の変動にも左右されるようで、2010年には、エルニーニョ現象にともなう干ばつの影響とみられ、1月から3月にかけて雷がほとんど止まってしまいました。
船乗りを導いた「灯台」
雷鳴が聞こえないほど遠くからでも、その光ははっきり見えます。そのため昔から、この稲妻は船乗りたちにとって夜の目印になってきました。「マラカイボの灯台」という呼び名があるほどです。
19世紀にベネズエラで活躍したイタリア出身の地理学者アグスティン・コダッツィは、1841年に、この光を途切れることのない稲妻のようだと記し、灯台のように航海者を導くと書き残しています。
一方で、よく語られる伝説には注意が必要です。16世紀、イギリスのフランシス・ドレークが夜襲をかけようとしたところ、この稲妻に照らされて見つかってしまった、という話があります。しかしこれは、スペインの劇作家ロペ・デ・ベガの叙事詩の一節を誤って解釈したものだと指摘されています。もとの場面は1595年のプエルトリコ・サンフアンへの攻撃で、夜空の光は燃える船の炎だったというのです。